舞台『嘘つき』 いよいよ最終稽古。 この作品は、 人間なら誰しもが持つ、 心の奥底にあるものを具現化しているような気がする。 田中彪の演出は、 実に真っ直ぐだ。 リアリティを追求し、妥協しない。 だから役者に求めるものは大きい。 徹底的に役や芝居の事を考えなければ、 演出家を納得させられない。 だからこそ、 若手たちは苦しむ。 その若手たちの姿を見ていると、 昔の自分を思い出す。 あの経験は、 今でも俺の役者人生を支えている気がする。 ただ、 これは今だから言える事。 数年前までは、 思い出すのも怖かった。 当然その時は、 稽古場に行くだけでも 軽く震えがくるほどだった。 演出家の求めている芝居が出来ず、 これでもかとダメ出しをもらう。 それでも出来ない俺。 周りの先輩方が見かねて、 沢山のアドバイスをくれる。 それでも演出家が納得する芝居をする事が出来ない。 気を使って先輩がラーメンを誘ってくれ、 泣きながら食べたのを覚えている。 明日は思い切ってやろう! と気持ちを切り替えて稽古場に行く。 しかし、 自分のシーンの稽古をやると、 何も出来ない自分がいる。 ほかの役者陣は(ほぼ先輩方) 次々と新しいシーンの稽古に進んで行く中、 俺は、毎日同じシーンやり、 全く進まない。 そんな日が何日も続いた。 演出家から、 君のシーンはもういい、 と言われ、 最終的に、 俺のシーンを削るという処置をとらせてしまった。 悔しさ、恥ずかしさや、 申し訳ないと言う気持ち、自分への不甲斐なさ、、 正直、 逃げ出したかった。 本当に、キツかった。
この話をこうして書く事が出来ているのは、 少し自分が成長出来ていると実感しているから、 なのかな。 いや、ただ歳とったからか。
自分でも不思議だ。 でも一つだけ言えることは、
あの経験が、
間違いなく今の自分を形成している一つの要素だと言うこと。 役者は楽しいだけじゃ出来ない。 観ている人の心を動かすには、 それなりの覚悟がいる。 この『嘘つき』という作品に出ている役者は、 それを持っていると確信している。 本日いよいよ最終稽古、 俺も自分の覚悟を形にして、 この作品と向き合い、
皆と一緒に作り上げてきます。